永山裕子×笠井一男 特別対談 第一回
『永山流 水彩画法』で“上質な癒しの世界”を表現した、永山裕子さんと、今回のDVDの仕掛け人でもあり、横浜画塾を主宰する笠井一男さん。DVDの制作の裏話から、教室の話、モチーフの話など、以前から親交の深いお二人ならではの、普段は聞くことのできない本音の対談をご紹介します。第一回のテーマは、発売後間もない『永山流 水彩画法』のDVD制作についてです。ほどよく力の抜けたお二人のトークをお楽しみ下さい。

撮影時のオフショット

笠井(以下、笠):最初に僕が今回DVDの話をした時、永山さんが本当に受けてくれると正直思ってなかったんですけど。

永山(以下、永):笠井さん、よく言うわっていう感じですね(笑)。他の方にもDVDを作りましょうというお話を頂いていますと、笠井さんにお伝えしたんですけど…。これはあくまでも私達のお願いなので、色々と内容を比べて下さいって言いながら、もう次々に話を具体化して…。

笠:えー、そうでしたっけ?(笑)

永:いや、本当。別に考える間を与えてくれなかったとかじゃなくて、私がこのままいったら、やるだろうなって知らないうちに思ってしまっていて。

笠:またそういうことを言う(笑)

永:嘘々 (笑)。あのー、本当になんでしょう?笠井さんが信用できたことと、今回のスタッフが、面白い気がして、何かお仕事が一緒にできたら本当に面白いかもって。いわば、やる気があったってことです。

笠:最初から、How to臭さがプンプンした感じにしたくないねって話をしていたし。全体としては、水彩画のHow toは丁寧にわかり易く、しかもエンタテインメントとして見れて、癒される映像にできればいいなっていうのは、僕は最初から思っていたんですよ。ところで、永山さんは描きながら喋るのってそんなに苦じゃないですか?

永:私は二つの全く違うタイプの作品を描いていて、抽象画の和紙のコラージュの方は、音楽も絶対ダメだし、誰かいるのもダメだし、もう完全に孤独じゃなきゃ描けないんですね。しずかーな、誰もいない所でやるのが好きなんです。水彩画は音楽をガンガンかけていたり、ラジオ聴いたり、人と喋ってたりしながらでも…。友達が遊びに来ていて、友達と喋りながら描き上げたこととかあります (笑)。

笠:へー、本当?それは僕にはできないな。

永:多分私にとっては、水彩画を描くことは、リハビリとか、癒しなんだと思います。抽象画の和紙のコラージュの方は螺旋階段を下って行くような感じで、どんどんどんどん一人になっていくんですけど、水彩画の方は上がっていく感じで、本当に自分のリハビリっていうか、楽しみ。この前、趣味は?って美術の雑誌で聞かれることがあって、私、水彩って書こうとしちゃいました。

笠:はははは、それはちょっとダメなんじゃない(笑)。えー?って思う人もいるかもしれないですね。

永:そうですよね。よく絵を描いていてお疲れでしょうって言われるんですけど、絵は楽しいから疲れないんですよね。描けば描くほど元気になると思うから。だから大きい絵を描けば描くだけ、あーなんか嬉しいなっていう。描いた分だけ元気になれるなーとか思ったりするんですけど。

笠:今回のDVDを見た人達の中に、筆を何本使って、筆をどのタイミングで洗っているのかっていうのを見たかったっていう人がいるんですよ。

永:本当?私もね、この部分が分からなかったって人に言われて、自分では気がつかなかったので、ええ?分かんない?って言ったら画面からじゃわからなかったわ、っていうことを結構言われたので。ああ、そうかって。

笠:DVDってあれだけ見せていても、絶対どこかカットされてるって言うんですよ。実際には殆どカットしていなくても、急に出来てるみたいな印象が結構あるらしくて、特に薔薇の花に関しては…。

永:大事なところを隠してるみたいな(笑)?そんなー!なにもないですよ。



笠:薔薇の花の真ん中の辺りに、オレンジがポワーっとなったりするじゃないですか?その後葉っぱをガーっと入れていった時に、花が浮き上がってくるでしょう? あれ、絶対行程をカットしてるって言うんですよ(笑)。してない、してない。あれが不思議みたいですね。

永:実は私、先々週ハワイに行ってデモンストレーションしてきて、ハワイの方も、永山流 水彩画法のDVDを見ていたので、同じことをやって欲しいって言われて、やったんですよ。私も日本で何回かデモンストレーションやってるんですけど、大体日本の方から受ける質問って決まってるんです。筆は何号ですか?今、何と何の色の絵具を混ぜましたか?紙は何を使っていますか?とか、技法的なことを質問されることが多いかな。そうしたらね、ハワイではそういうことを質問する人が一人もいなくって。今この薔薇の中で、どれが一番自分が好きな花なの?とか、今どんなインスピレーションを感じているの?とか。ええ?今まで聞かれたことない!っていう質問ばっかりで、本当にびっくりしました。

笠:うんうん。

永:質問が絵の本質に近くて、私も、あっ!そうかそうか、って考えながら描くのが楽しかったですね。その筆の号数だとかも大切なことかもしれませんが、その方に合うものと私に合うものは違うじゃないですか?だから全く同じにしても、多分全部同じ状況ではないと思うんです。でも、同じにして真似てみようという気持ちでおっしゃっているのかも知れないですけど。

笠:でも真似は真似でいいと思うんです。一回真似してみて、自分に合うか合わないかで決めればいいので。模写もそうだし、とにかくやってみたらわかることがたくさんあるから。ただ、本質的な質問みたいなものも、もっとあってもいいかなっていう気もしますね。

永: ところで、DVDの中で絵を描いていた時は、笠井さんから関連性がある質問がきていたので、答えやすかったです。例えば全然違うことをやっているときに、全然違う質問だと、うーん?ってなってしまうと思うんですけど。

笠:僕はあの時、生徒さんの気持ちで質問したつもりなんですよ。DVDを見た生徒さん達が、あっ!今それが聞きたかった!って所が、当たればいいなと…。でもさっきの、薔薇がいきなり出てくるっていう所で、絶対何か途中にあるはずだっていうのが、そこはやっぱり永山マジックなんですよね、きっとね(笑)。

永:じゃあ、端折ってませんよっていうのを(笑)。

笠:うん、カットしてないよっていうのをちゃんと、伝えないとね。永山流 水彩画法みたいなDVDってあんまり日本にないじゃないですか。海外ではビデオの時代から映像で見せていて、それが一番ストレートでわかりやすいって気がするんですけど。日本ではやっぱり、秘密主義とは言わないけど出したがらない、見せたがらない作家の方が多いのかなと。

永:私も、よくここまで見せましたね、みたいなメール頂いて、そうなのかな?と後で思ったんですけど。でも自分のお尻に火をつける意味でもいいかなと思って。

笠:うん、そこは偉いなと思ったんですよね。

永:いやいやいや(笑)。もしそれで真似をされて、その人の方が上手になって名前がでたら、結局私はそれまでの絵描きだし…。例えば巨匠の話でいえば、多分そのもとになる画家がいたんだけど、その技法を盗んで、盗んだ方の画家だけが歴史上に残ってるなんて、いくらでもあると思うんですよ。で、もとになった画家はもう名前がない。そういう世界ですよね。私の場合は、そんな大それたものじゃないけど(笑)、じゃ、ここまではお見せできます。ここからもっと自分らしいものを見つけていかないとって。すごい、かっこつけちゃった(笑)。

笠:いや、いや。永山さんの中では水彩画を描くことは、抽象画の和紙の作品とは違う、気分が高揚していって、絶対に自分だけのものだけという重たい思い入れみたいのがないから楽しいっていうのがあるじゃないですか?だから皆さんにお見せしても構わないですよっていう、良い意味でこだわってないのがすごいんだと思うんです。そこにあるのは半分私かもしれないけど、全てじゃないわよっていう余裕をとても感じるんですよね。

永:よく言うわー!笠井さん(笑)

2008.3.7 大塚アトリエにて