永山裕子×笠井一男 特別対談 第三回(最終回)
いよいよ永山裕子×笠井一男 特別対談も最終回です。今回のテーマは、モチーフとデッサンについて。モチーフに対する思いや、デッサンに対する考えなどを対談して頂きました。モチーフとデッサンとはどのようなものなのか、画家として、そして講師としてご活躍のお二人のお話をお楽しみ下さい。



永:今回のDVDは薔薇を描くということで、モチーフは薔薇と決まってたじゃないですか。大塚アトリエから自宅までの間に、8軒くらいお花屋さんがあって、絶対いつもその内のどこかにいい薔薇があるんですよ。ところが撮影の前日に限ってモチーフにしたいと私が思える薔薇がどこのお花屋さんにもなかったんです(笑)。本当はもうちょっと前に用意しておけばよかったんですが。探しまわってやっと見つかった薔薇があの薔薇なんですよ。

笠:ああ、撮影の時に中々見つからなかったって言ってましたよね。

永:そういえば、今「モチーフ」って言いましたが、モチーフってフランス語ですけど、英語だとMotive、モチベーションという意味になるんです。モチベーションっていうと「やる気」とか「動機」とか、心揺り動かされるもので、いわば主題という意味。そのモチベーションがモチーフなわけで、要するに本当に描きたいものってことなんですよね。

笠:ああ、なるほどね。

永:モチーフを描く時って、パン一個でもそこに面白さを見つけてじっくり描くことを教えるやり方と、たくさんモチーフを与えて、そこから選んで描くことを教えるやり方と、二通りあると思うんですよ。私はどちらかと言うとたくさんモチーフを与えて、そこから自分で選びとって描いてくださいと言う方なんです。そこから選びとるのは難しいとは思いますけど。でも、少ないモチーフでじっくり描くことも、たくさんあるモチーフの中から選びとって描くことも、そのどちらも絵を描く上で必要だと思うんですよね。

笠:僕も最近、永山さんの影響でモチーフを増やしているんですよ。例えば風景とか描きに行くと目に入る風景の中から描く所を探すことから始まるわけじゃないですか。

永:そうですね。絵を描く時は風景を切り取りますからね。

笠:例えば船と空と海がある風景を描く時、同じ場所を描くにしても、空をメインに描きたかったら船を下の方に描くじゃないですか、船が海に映ってるのを描きたかったら船は上に描くっていう。そのぐらい簡単なことなんですけど、構図って自分が描きたいものとかそこの場所を選ぶ理由とか意図があって初めて決まると思うんです。

永:そうなんですよね。構図っていうとみんなすごい難しいものに思うけど、「構図=気持ち」だと思うんですよ。ここが描きたいっていう気持ちが構図だと思うので、これが良い構図、悪い構図っていうのから入るんじゃなくて、「何が描きたいの?」っていうのが重要だと思うんです。だから、やっぱり教室に来るからには色々なモチーフを提供してあげたいと思っちゃいますよね。

笠:永山さんはえらいなと思いますよ。中々そこまではできないですよ。

永:いえいえ!私はモチーフってピアノで言ったら楽譜だと思っているんです。その楽譜を、自分なりにアレンジして自分なりに弾くからいいわけじゃないですか?絵も全く同じで自分なりに描いていいんですよ。モチーフがたくさんあっても、その中から選び取ったり、感じ取ったりすることが大切なので、そこに私は介入しないけれど、でも基本はちゃんと身につけてないと描こうにも描けないから、基本のお稽古はそれなりに厳しいよって感じです(笑)




笠:そうですね。では、基本のお稽古ってなるじゃないですか?そこがね、一番難しいところだと思うんです。四角いものをちゃんと四角く描けるとか、丸いものが丸く描けるとか、生徒さんにどこまで言っていいのかなって思うんです。じゃあ、きちんと基本を理解するためには、みんなデッサンをしっかりやらなきゃいけないかっていうとそうでもないし。だけど水彩画をやるのに、デッサンが関係ないかっていうとそういうことでもなくて、絵具でデッサンしていると思えば、それもデッサンだし。

永:うんうん。なるほどね。

笠:よく見て、感じて描くという意味でいうと同じじゃないですか?鉛筆で描くか木炭で描くか絵具で描くか、そういう意味じゃ同じですよっていう。だから別に水彩画から始めたかったら水彩からやればいいし。その方がやっぱり楽しいしね。デッサンって中々辛いじゃないですか?

永:そうですよね〜。

笠:すぐには伸びないっていうか(笑)、それでいて何級になりましたとか、それこそ「○○検定」じゃないけど、「ああ、頑張ったから2級になれた!」とかそういうのもないでしょう?永遠にずーっと、ずっと続くわけで。そうなるとね、普通の素人というか初めて絵をやるような人は結構辛いだろうなと思って。そんな辛いことをやりたくないっていう人も沢山いるわけだから。だから水彩へどうぞどうぞって言うんだけど…。でもデッサンをやらずに水彩画を習って、一生懸命見て描いたけれどちゃんと描けない、形がとれないとか、形が歪んでしまうということがあって、やっぱりデッサンって必要なのかもって気づいた時にデッサンをすればいいんですよ。ちょっと基本に戻ってというか。

永:笠井さんが言うとすごく説得力があります!

笠:ところで永山さんは今度、武蔵野美術大学で教えるんですよね。(2008年4月よりスタートしました)

永:はい。油彩画科で教えることになりました。ゼミもうけもつので、水彩も取りいれてみようかなと思っています。若いみずみずしい感性の子たちが、ワーっと出てきたらすごいだろうなぁと思って。

笠:最近は油絵はあんまり人気ないらしいんだけど、水彩画は手軽だし、もっと若い人がいっぱいやってもいいと思うんですけどね。

永:大塚アトリエでやってる、別の先生のクラスではデッサンをやっている若い子が結構いるんですけど…。

笠:やっぱりデッサンって必要だと思ってる人がたくさんいるし、あるいは思い込みでデッサンからやらなきゃいけないって思ってる人もいるんですよね。アニメの世界や、ゲームを作る人たち、それからコミック系の人達も、あとは何人かうちにも来てるんだけど、造園って言うかガーデニングやる会社の人とかも。

永:へー!

笠:自分のお客さんにササっと、こんな感じの庭になりますよって描けるようになりたいとか。あと歯医者さんも、差し歯なり入れ歯なりを作るのに骨格を自分なりにある程度描けるくらいに理解して、それで技師に頼むといい歯ができるんですって!だから、デッサンってベースの部分として、必要としてる所が意外とありますよね。

永:うん。そうですね。緻密な説明が必要な仕事だったり、ガーデニングの風景の説明だったりね。おもしろいですね。

笠:説明するのにパっと絵を描けるのはいいですよね。それで、まあ、例えば、『永山流 水彩画法』の続編を出すとしたら、デッサンもありかなと思って(笑)。

永:あー、デッサンは大好きですけどね (笑)。

笠:じゃあ次は鉛筆デッサンのDVDをやりましょうか(笑)!

永:(笑・笑)

2008.3.7 大塚アトリエにて