『永山流 水彩画法 -永山裕子 薔薇を描く-』を10倍楽しんでください! Vol.5
チャプター4 〔貴重な白 1〕

おかげさまでこのシリーズを始めてから水彩堂JAPANを訪れる方々が急増しています。水彩画ファンの皆さんに何かしらのお手伝いができたとしたら、とてもうれしいです。
さて、今回から本格的に描き始めていきます。紙と水と絵具が織り成す“魔法”の世界をお楽しみください。

《25分30秒〜25分36秒》
永山さんは「えっとー、下塗りが“完全に”乾きました。」と言っています。ここをスルーしてしまう方も多いと思います。ここで永山さんが敢えて“完全に”と言っていることに私は注目します。生徒さんに教えている中で、“完全に”乾いているかどうかを確認していない方が多いからです。特にドライヤーを使う場合、表面だけ乾いていて中の方が水を含んだままということがままあります。しばらくするとその水分が表面に染み出てきて、乾いたはずの絵具を湿らせてしまい、その状態で筆で擦ると前の絵具が解けてドロドロした汚い調子になったりします。永山さんは、だからこそ“完全に”と言っているのだと思います。
永山流 水彩画法

《25分37秒〜25分55秒》

私は、この“偶然性”が水彩画の醍醐味だと思っています。水、紙、筆、絵具、湿度、気温、風、気力、体調、念・・・。あらゆる要素が絡み合って、予想もつかない微妙な色や美しい模様やグラデーションが現れる驚きを大切にしていきたいですよね。自分の筆でなんとかねじ伏せようとすると、透明水彩の場合に限っては汚くなってしまいがちです。生徒さんによく「自分の腕(筆)でなんとかしようなんておこがましいですよ。自然現象の美しさにはかなわないんだから」と言ったりします。

永山流 水彩画法

《26分36秒〜27分06秒》
動き(ムーヴマン)、方向性についてのお話です。ディテールにこだわることも大事ですが、最初から花びら一枚一枚や、洋梨の色ばかりに気をとられてしまうと、生き生きとした花やおいしそうな洋梨にはなりません。まるで“会話しているバラの集まり”だったり、“おしくらまんじゅうをしている洋梨”のように擬人化してみると一つ一つに個性を感じ、それぞれの方向性を自然に意識できるかもしれませんね。
永山流 水彩画法

《27分08秒〜27分36秒》
構図を決める時は、どこまで入れてどこで切るか、もっとわかりやすく言うとどこを切り取るかということが大切になります。そのためには構図決定に際して、どんな絵にしたいのか、モチーフの“何を”描きたいのかという意思(イメージ)がないと決められませんよね。“何を”というのは“バラを”とか“洋梨を”ということも含みますが、“華やかさを”とか“光と空間を”というような作品全体のイメージを左右する要素も構図決定に大きな影響があるということです。同じ港の風景でも、海に写る船を描きたい人、青空ののどかな港を描きたい人では切り取り方はまったく違うはずですから。

つづく>>